イノベーション活動組織の失敗事例 要因と対策【継続の鍵は?】
イノベーションや開発活動の組織について「継続の鍵」についてまとめました。
また具体的な失敗事例とそれらの要因、対策についても挙げています。
ブログ記事が長くなってしまったので、目次から気になる部分に飛んでください。
Contents【クリックできる目次】
- イノベーション・開発の組織活動 「継続の鍵」は事務局や統括部門
- イノベーション活動、開発組織の失敗事例 要因と対策
- 新規事業・開発テーマを募集しても集まらない、アイデアが出てこない
- テーマが集まり過ぎて何から手を付けていいかわからない
- 初期のテーマ選考段階で絞り込み過ぎてしまう
- アイデアに行動が伴わない、テーマ検討やプロジェクトが進まない
- 役員や社長、経営者など上層部の好き嫌いで進退判断されてしまう
- 既存事業の社員の協力や理解が得られない
- 優れた意見やテーマがあっても推進メンバーが集まらない
- イノベーション人材がテーマ活動に集中できない
- 既存の評価制度で評価されずモチベーションが低下
- 事業を推進できるイノベーション人材の退職
- イノベーションに手を上げる希望者が減っていく
- 【まとめ】組織を維持・活性化させるには事務局・統括部門による整備・サポートが必要
イノベーション・開発の組織活動 「継続の鍵」は事務局や統括部門
個別の失敗事例やその要因・対策の紹介に進む前に、最初に「イノベーション組織や活動の継続の鍵」に関する結論を挙げておきます。
企業におけるイノベーションや新規事業の探索組織・開発活動の継続の鍵は「事務局や統括部門」が握っています。
イノベーションに関する組織ビルディングコンサルティングへのインタビューや、イノベーション組織を立ち上げた多くの企業を調べていく中で、個別の失敗事例や困りごとを聞いていくと「ココ」に辿り着きます。
つまり、これから挙げる個々の失敗事例・困りごとを解決したり、フォローする組織が必要なのです。
「個々の開発テーマを推進するメンバーが居ればいい」
と思われがちなのですが、「メンバーをどうやって集めるか」、「集まったメンバーが集中できる環境をいかに作ってあげるか」、「活動の障害をいかにすばやく取り除いてあげるか」、が重要です。
これを理解した上で、以下の具体的な失敗事例について、どうすれば失敗を防ぐことができるかという対策も含めて確認していきましょう。
イノベーション活動、開発組織の失敗事例 要因と対策
ここからは実際にイノベーション活動や開発組織における具体的な失敗事例とそれらの要因、対策について挙げています。
自社や自分の所属部門について当てはめながら考えてみるとイメージしやすいと思います。
ここに挙げている内容は、私が製造業に勤務時代に新規事業の立ち上げ提案をする際に調べた内容、および大学院でのイノベーションに関連する研究にあたり文献や書籍を調べた内容&実際に新規事業コンサルの人にヒアリングした内容です。
ちなみに、当記事にて話す「開発」という言葉ですが、あくまで新規事業に関する開発であり、既存事業の延長線上にある新製品などの開発業務とは分けて考えてください。
新規事業・開発テーマを募集しても集まらない、アイデアが出てこない
社長や役員など経営層から
「新規事業を探すからアイデア出して」
「新規事業に繋がる技術開発テーマのアイデアを出して」
と社員に問いかけた際に、具体的な提案が全然出てこないことがあります。
この状況は本当にアイデアが無いのか、或いは何か理由があって言いたくないのか、どちらかです。
社員が「アイデアに気付く視点」を持っていないかも
そもそも社員が普段から「何か新しい事ないかな」という視点を全く持っていない場合や、いつも忙しすぎて他の事を考える余裕がない場合、日常の不便や改善点に疑問を持てないことがあります。
「こうするのが当たり前」
「この製品を開発すること、設計、実験、加工することが私の任務」
「この製品を売ることが私の任務」
というまっすぐな感覚、姿勢ですね。
よく言えば集中力がある、分業が進んでいる、責任・担当区分がはっきりして
いるとも言えます。
この様な場合は社員に対して「気付きの視点を持ってほしい事」を呼びかける必要があります。
アイデアを忘れてしまっている可能性
普段の業務の中で、
「ウチの製品や技術を使って、こんな事業ができたら面白そう、売れそうなのになあ」
「この会社の営業対象にこんなものを作って売り込んだら売れそうなのに」
「テレビを観ていて、ウチの技術を使えばもっと簡単にできそうだな」
そんな感想やイノベーションのネタを持つことは自然と思います。
でも日常業務が忙しい、それどころではないぐらいピンチの状況であったら、そのような感覚をすぐに忘れてしまっていることも多いです。
対策として数か月の募集期間を設ける
問いかけてもアイデアが出てこない時は、新規事業や開発テーマを見つける視点自体を持っていない場合や、以前に思いついた事を忘れている可能性もあるので、募集期間を延ばしましょう。
その際にはただ「募集期間はいつまで延長する」と呼びかけるだけでなく、
「会社が新規事業テーマを探していて、リソースを充てて活動する意志があること」
「自社製品や所有技術を使って、こんな事業ができたら面白そう、売れるかもしれない」
「自社の営業対象、販売業者にこんなものを作って売り込んだら売れるのではないか」
といったような社員にわかり易い文言、感覚の言葉と一緒に発信します。
会社の意思を知ってもらえば、日常の業務に取り組んでいるなかで新しいアイデアに気が付く、以前に考えたアイデアを思い出す社員も出てくる可能性が高まります。
数か月でアイデアが出てこないなら「言いたくない」可能性が高い
それでもアイデアが出てこない場合、要因としてはこちらの可能性が高いです。
「何らかの理由によって言いたくない」という状況です。
言いたくない要因としてはおおよそ下記のような理由が多いです。
- アイデアを出して「いいね、それ。あなた早速やってみて」となり仕事が増えることを警戒している
- 出した意見に対して批判、批評(ダメ出しなど)、マイナス評価をされたくない
- そもそも会社に対してそれほど改善意欲が無い(現状の担当業務遂行、維持に満足している)
どれに該当するかによって対策は変わってきます。
出てきたアイデアに対して誰がどうやって推進するか、まだ何も見通しが立っていない場合は、アイデア募集の際に「今回はアイデアを募集するのみで発案者に工数負担を掛けるわけではない。テーマ推進者は後から別途検討する」という事をしっかりと言及しておきましょう。
またアイデアに対して採用するかどうかは判定するが、批評、批判はしないことも重要です。
まったくアイデアが出てこない、意見が出てこない要因が「批評、批評(ダメ出しなど)されたくない」というものであった場合、既に会社が「意見が言いにくい雰囲気」になってしまっていることが考えられます。
社長なのか役員、部長なのか、強権政治体制になっていることに心当たりはありませんか?
イノベーションは「心理的安全性」が無い環境では生まれません。
この場合、新規事業のイノベーションよりも先に職場の雰囲気の改善が急務です。
テーマが集まり過ぎて何から手を付けていいかわからない
「なんでもいいからアイデアを出してくれ」と募集したところ、たくさん集まりすぎて困った、すべてを検討することが難しいということもあります。
先に挙げた「アイデアが出てこない状況」よりも良い状況です。
集まらないよりは集まった方がよい
たくさん集まったのあれば絞ればいいだけです。
出てきたアイデアを分類したり、一定の基準を設けて選別すればいいのですが、実務として選定工数を割けない場合は、募集時に使用する「発案シート」に基準を設けて再度発案者に記入してもらい、基準を満たしたもののみ提出できるようにして案件を絞りましょう。
制限を掛けて申請時のハードルを上げる
申請に基準を設けて制限したり、シート記入時に収益の可能性・展望を記入してもらうことによって着手可能なテーマ件数に調整することを目指します。
それでもボトムアップ提案が多すぎる場合、「提案者がプロジェクト推進する前提として推進メンバーも事前に自力で集める」、「社内コンペで予算を取り合う」などして、事前準備や条件を付加することにより「よりモチベーションの高いテーマ」が残るように工夫します。
「絶対にコレをやってみたい、成功させたい」という熱意を持ったボトムアップ提案をする人の方が新規事業の成功確率が高いはずです。
初期のテーマ選考段階で絞り込み過ぎてしまう
上記に新規事業の探索に着手する前のテーマ選定についてお話しました。
ここからは「新規事業の探索に着手してからの話」をしたいと思います。
数テーマを候補にして個々のイノベーション活動を開始したものの、テーマ選別時や検討の早い段階において多くのテーマが「見込み無し」と判断されてしまい、結果として最終検討に至るテーマが無くなってしまうという状況に陥ることがあります。
初期段階は「収益確保、実現性」よりも「収益可能性」を見る
新規事業の成功確率(事業化に至る確率)は5~10%とも言われています。
という事は可能性のありそうな10件を選んで、試行錯誤しながら事業化の可能性を探してみたら1件くらい「これはいけるかも」というものが見つかれば"イイ線に乗っている"と言えます。
逆を言えばほとんどがNGとなる可能性が高いという事です。
そもそも「わかりやすい儲かりそうな話、実現できそうな話」ならば、あえてイノベーション活動とする前に既存組織で検討しているハズです。
実際に集めたばかり、着手時点におけるイノベーション案を見ると、
- そのままだと無理だけど、ズラしてみたり、顧客の無意識の潜在ニーズを調べる価値はあるかも
- うまくいけば面白そうだけど実現方法あるかなあ
- 現状では実現不可能な製品だけど、違う技術で代替えできれば似た機能が実現できるかも
といったように
「収益性や実現性にイマイチ疑問があるけど実現できれば、うまく化ければ、発展できればイケるかも」
といったレベル感のテーマに着手する段階です。
特に発案・選定から間もないそのような状況のアイデアに対して、
「必ず実現できるの?」
「それってどれくらい儲かるの?」
「利益が必ず確保できるの?」
と実現性や収益性に着眼して問いかけてしまうと、ほとんどのテーマが「検討に値しない」という結果になってしまいます。
まして今まで厳しいビジネスの視点で物事を見てリスクを精査、進退判断してきた優れた経営者、役員であればあるほど、初期の段階で「却下」となってしまうことでしょう。
テーマ初期の段階では「確保可能な収益性」ではなく、「将来の収益の可能性」に対して着眼しましょう。
進捗フェーズによって評価レベルを設定【ステージゲート法】
対策としては、多くのイノベーションに取り組んでいる企業で使われている「ステージゲート法」と言われる手法を使います。
ステージゲート法はプロジェクトマネジメントにおける進捗管理でよく使われており、一般的なので馴染みがあると思います。
適切なタイミング(進捗フェーズ)で適切な評価指標によって判断を行うプロジェクト管理手法です。
詳細はこちらの書籍「ステージゲート法―製造業のためのイノベーション・マネジメント」がお薦めです。
特に製造業におけるプロジェクトマネジメントに関わる人は読んでおくと仕事に生かせます。
進捗の状況によってステージ(フェーズとも言われる)を分けて、それぞれのステージから次の段階へ進む際に判断基準となるゲートを設けます。
個々のステージとゲートに応じて下記の視点で判断基準の厳しさや指標を決定しておき、判断者もステージを進むごとに徐々に難易度を上げていきます。
- 実現可能性(期待感 →実現の確実性)
- 収益性(期待される収益の大きさ、可能性 →確実性、確保性)
- 判断者の段階(マネージャ、リーダー →役員、社長など経営層、外部コンサルなどの客観視点)
後述しますが投資金額、人的リソースについてもここで設けたステージ・フェーズに応じて大きくしていくのが効率的です。
アイデアに行動が伴わない、テーマ検討やプロジェクトが進まない
いくつかテーマを決めて活動をスタートしてみるとテーマや担当者によっては、なかなか検討が進まない状況が見られることがあります。
進まない理由は困難な課題に直面していたり、他部門との利害関係があったり、人の適性であったり、マチマチです。(通常業務における進捗の滞りと考え方は同じです)
各検討ステージで「すべきこと」を明確化してあげる
もちろんイノベーション活動、新しい分野の事業の可能性を探るというアクションについて、テーマ推進者・担当者にとっても初めてのことが多いはずです。
そのため何をすればいいかあらかじめ明確化してあげることが必要となります。
先に挙げたステージゲート法における各ステージ・フェーズに応じて、「何を明確化したらいいか」「どうすれば次のステージに進めるか(ゲート通過できるか)」という見方ができれば、より具体的な行動に落とし込んで考えることができるハズです。
各ステージでどのレベルまで検討を詰めればいいのか明確にして、「何をしたらいいかわからない」状況を防止しましょう。
テーマやプロジェクトごとにメンターを選定してフォローする
テーマ推進者・担当者にとっても初めてのことが多いイノベーション活動ですが、それが「楽しい」と思える社員はいいのですが、一方でストレスとなってしまう社員についてはフォローが必要です。
「どうやって行動したらいいか、何をしたらいいかわからない」となってしまうとテーマ検討やプロジェクト自体がストップしてしまいます。
そのような状況を避けるにはテーマ別にメンターを設定してフォローしてあげることが対策となります。
このメンターはある程度部門横断して動ける行動的な人、他部門へ発言権や影響力を持った人であることが重要です。
一般的にはテーマに関連する役員、イノベーション統括部門の部門長などが多いです。
特に関連部門を横断している役員がメンターであれば、客観的な判断から指示を出したり、既存部門のリソース協力も得られるのでテーマ推進速度を上げることができます。
またメンターはテーマ推進者・担当者の事業推進能力を育てるという人材教育の観点でも重要です。
特に「アイデアを出して事業化を実現したい」と自ら手を上げて活動する人は会社の中でも優秀な人材であることが多いと思います。
そういった将来の経営幹部候補を育てるという側面も期待できます。
また担当者の個性を把握することも重要です。
- アイデアはたくさん出せるけど人を巻き込んで事業推進は苦手
- 考えるのは苦手だけどやることが決まれば推進力はピカイチ
- グイグイ推進するのは苦手だけど人を取り込むのが上手、などなど
メンターが上記のような担当者の個性や適性を見ながら、アドバイスやフォローしていくと推進チームにまとまりが出て進捗速度アップにつながります。
役員や社長、経営者など上層部の好き嫌いで進退判断されてしまう
経営上層部に好かれたテーマはいいのですが、イマイチ知らない分野、今ドキの開発テーマなどに対して経営層にアレルギーがあることで排除されてしまうことがあります。
また役員の直下自部門にとって「おいしくないテーマ」が排除される可能性すらあります。
経営者ならではの「鼻が効く」ことによって既存事業が生存してきた面もあるので、一概に悪い事ではありません。
しかしイノベーションを起こす、新規事業を探すといった面においては「既存の価値観による排除」がイノベーションの障害となってしまいます。
経営陣はこれを認識して自分があまり賛同していないテーマでも「まあやってみらいいんじゃない」くらいの広い心を持ってやらせてあげましょう。
そして前出のステージゲートにてプロジェクト管理をしながら、あくまで客観的に判定しましょう。
最終的な進退判断はもちろん役員始め経営層にて行われるべきですが、社外人材、コンサルタントなどによる客観的な見識や意見も尊重すべきです。
既存事業の社員の協力や理解が得られない
イノベーション活動を担当する社員にとって既存事業の社員からツライ視線を受けることがあります。
「おれ達が一生懸命に確保した利益をアイツら趣味みたいなことに好き勝手に使いやがって」
ちょっと言葉は悪いですが、似たような不満が既存組織から発生することがあります。
一理あると言えばそうなのですが、そうかと言っても会社の数年後、数十年後の発展を考えるとイノベーション、新規事業の探索は必要です。
一方でこのような感情、意見をないがしろにしていると、既存組織のモチベーションやエンゲージメントに影響が出てしまい、既存事業の利益にも悪い影響が出てしまいます。
そのような事態は避けなければいけません。
対策としては、
経営層・経営トップから「イノベーション活動や推進組織は会社の将来のために必要な投資である」ことを情報発信し、社員に理解してもらうしかありません。
企業文化をすぐに変えることは難しい そのために組織を独立化
イノベーション組織を独立化して役員直下に配置することで、既存事業の文化との衝突を避けます。
長年培った企業文化はすぐに変えることは簡単なことではありません。
特に長く続いている企業や組織には安定志向や継続路線の考え方が根付いていることが多いのですが、これは決して悪い事ではありません。
しっかりした企業文化や安定志向があるからこそ、今まで品質を維持することができ利益を確保した経営が維持できた面もあるはずです。
一方でイノベーション、新規事業の探索、チャレンジといった試み自体が、「異端」とみなされてうまく機能しない、協力が得られないような事態が発生する可能性が高くなります。
「企業出島」という考えはこの対策としても機能します。
つまりイノベーション組織や活動を既存組織から一定の距離を置いてうまく切り離して、そこで新しい文化を作りそれを守ることを目指します。
そこで育った考えや人材、新規事業を本体である既存組織と流動させて、排除が起こらないように徐々に文化を発展させていく考え方です。
リスクを明確に限定し、全社員に共有する
上述した既存組織の従業員の不満のタネは一体どこからきているのか考えてみます。
既存組織の社員、従業員は「今のまま会社が続いていけばよい」と考えています。
よって新しい活動、事業が失敗して既存事業に影響することを心配しています。
その心配を取り除くには、「新規事業に投資する金額をリスクにならない範囲で事前に決めて確保する」ことです。
そしてそれを全社員に共有します。
「新規事業に投資している金額はこれくらいです」
「この金額なら会社の経営にとってリスクにはならない範囲です」
「新規事業の探索は数年後、数十年後に会社が続いていくために必要です」
これらの言葉をセットで社員に発信し、共有して理解してもらうしかありません。
社長自らの言葉で「会社が続いていくために必要です」と話していれば、社員も理解して協力してくれるはずです。
優れた意見やテーマがあっても推進メンバーが集まらない
個人ですばらしいアイデアを出せる人がいても、チームで一つひとつのタスクを進めなければ事業化に至るまでの成果は難しいです。
一方で推進メンバー集め、チームビルディングについては、社内で自発的に組成されるのを狙うか、もしくは決定したテーマに人員をあてがう、のいずれかです。
あらかじめ会社が決めた開発テーマや新規事業案に対して上司がテーマ人員を選ぶのは、通常業務と変わらず、工数状況や適性を見て担当を決めるのと同じですので割愛します。
あくまでボトムアップ型の開発提案を望むものとして、どうしたら社員間で自発的にチームが組成されるかについて挙げていきます。
アイデアを共有する場が必要
個人が持っているアイデアを他の人と共有したり、施策して目に見えるモノにしたりする「場」が必要です。
この「場」で見たものに共鳴する人、共感する人が「私もやってみたい、参加したい」という気持ちを持ってくれます。
イノベーションと言えばソニーやホンダが有名ですが、こういった企業はこのような「想いを共有する場、形にする場」を大事に考えています。
またこのような場では否定される心配も減ることから心理的安全性が比較的醸成されやすいので、活発な発言も期待できます。
東京(品川)にあるソニー本社には「Creative Lounge(クリエイティブラウンジ)」と呼ばれるオープンな開発の場が作られています。
ホンダは東京(赤坂)にプロトタイピングをフォローするHondaイノベーションラボTokyoを設置しています。
他企業のイノベーション活動、組織や場づくりについてはこちらのブログ記事にまとめていますので是非参考にしてください。
→ 製造業におけるイノベーション組織の事例 新規事業の探索企業7選
社内SNSなどコミュニケーションツールを導入する
実際の場を作るとは別にローコストなWeb上にこのような意見交換の場を設ける企業も多いです。
ChatWorkやSlack(Zoom)、MicrosoftならTeamsなど、ビジネスコミュニケーションのツールとして社内SNSを導入し、そこで意見交換、仲間集めをしても面白いです。
場をつくるだけではダメ その場をどのように盛り上げるか
実際の場所にしてもWeb上にしても、「場をつくりました」としただけでは盛り上がりません。
よく「モノづくりの場」をつくる企業も多いですが、こういった場が活気を持って立ち上げ後も継続するかどうかは、その運営組織が鍵を握っています。
作った場所に人を呼び込む活動や全社員に向けて問いかけをしたり、イノベーションに関するワークショップを開いたりデモイベントをしたり、研修をしたり、といったように意見が生まれる、意見が言いたくなる、自然と足を運ぶような活動を活性化させるための啓蒙活動が必要です。
これは当ブログ記事の冒頭に挙げたようにイノベーション統括部門や事務局が担う部分です。
イノベーション人材がテーマ活動に集中できない
企業出島やイノベーション統括部門など新規事業の探索を行うための専門組織をつくっても、そこで活動を阻害されてしまうと、組織自体の活動が停滞してしまいます。
それらの原因と対策について考えてみます。
既存業務と兼任でイノベーション活動をしている
もっとも多く発生するのがこの状況です。
新規事業や技術開発のアイデアを出してみたら、
「じゃあ、それやってみてよ」
と上司に言われたのですが、工数のフォローやサポートが全くなされないパターン、ありますよね。
(イノベーションや新規事業に限った話ではないかもしれませんが)
誰しも既存組織で定常業務をしている状況だと思いますが、その上で「新しいこと」にチャレンジする時間的余裕、精神的余裕がある人は少ないのではないでしょうか。
アイデアを出してすぐに「専任でやらしてほしい」というのは難しいですが、進捗ステージに応じて業務時間の2割→5割→専任といったように、検討に費やすことができる時間と工数を確保できる環境を作ってあげましょう。
それを上司が守ってあげなければ、担当者は疲弊して(嫌になって)しまう可能性が高いです。
こちらも事務局や統括部門があれば、テーマ担当者の所属部門との調整を行うことができます。
活動に付帯する様々なことに時間を取られてしまう
テーマ推進活動時に欠員が出たり、事業化の可能性が高くなってやるべきタスクが多くなり人員が不足してきたら、人員の補充を検討しなければなりません。
この時にテーマ推進者が人集めをしていると、肝心なテーマ開発に掛ける時間が減ってしまい、精神的にも余裕が無くなってしまいます。
また企業出島やイノベーション統括部門に来た人員にとって、部門内の人事評価や部門間の業務調整など、既存組織であれば誰かがやってくれていた事を自分でやらなければいけなくなってしまうような事も避けるべきです。
こういった付帯業務や人員調整、部門間調整も統括部門や事務局が担う部分です。
既存の評価制度で評価されずモチベーションが低下
最近の一般企業においては人事評価において成果主義が多く取り入れられていると思います。
しかし全く同じ評価指標で新規事業の探索活動やイノベーション活動を評価すると、かなり不利な評価になってしまいます。
前述しましたが、新規事業の事業化の確率はテーマにも依りますが5~10%程度です。
そのような状況で成果主義をしてしまうとほとんどが未達成となってしまいます。
自らリスクを取って手を上げて積極的に取り組んでいるにも関わらず、既存の評価制度で低い評価査定とされてしまったら、担当者のモチベーションは下がってしまいます。
対策として、企業出島やイノベーション統括組織において組織を切り離した利点を生かして評価指標や評価制度も切り分けて設定します。
特に個人の評価については最終的に事業化できたかどうかよりも(事業化できたらもちろん評価します)、積極的な行動ができていたか、プロジェクト前進に貢献していたか、というように行動面に重点を置いた評価が必要となってきます。
事業を推進できるイノベーション人材の退職
上述の評価制度も大きく影響していますが、自らイノベーションに手を上げるような優秀な人材が退職してしまう事は避けたいです。
自らアイデアや問題意識を持って行動できる人間ですから、現在の会社に不満があったり、思うように行動ができないと退職を選んでしまう可能性も高いことが想像できます。
せっかく育てたイノベーション人材が退職してしまう理由と対策
このような人材が退職してしまうのはどんな理由が考えられるでしょうか。
新規事業テーマに取り組んでいる時、開発テーマに取り組んでいる時は自ら手を上げて始めたプロジェクトでもあるため、退職を考えることは少ないです。
一番退職の危険が高まるのは、そのテーマの完了時、完了の見通しが立った時です。
開発テーマが事業化できていればその後の事業にて中核メンバーとしてさらに活躍が期待されます。
一方で事業化できなかったとき、プロジェクト打ち切りとなった場合には特にフォローが必要です。
本人も迷ってしまうことが多い為、この少し前のテーマ終了が見えてきたタイミングで「イノベーション組織後のキャリア」について重点的に相談、面談を行いましょう。
優秀なイノベーション人材の退職防止は「活動後のキャリア選択肢を会社側から準備してあげること」です。
具体的に例を挙げるとこういった感じです。
- 元々の所属部署に戻りたいかどうか
- 別の部署で新たなスキルを身に付けたいのか
- 新たな別のイノベーションテーマに取り組みたいのか、などなど
とにかく「この会社にはあなたの活躍の場所がありますよ」という事を示してあげましょう。
せっかく育てた事業推進能力のある幹部候補の人材を退職させないように選択ルートを準備しておきます。
こういったイノベーション活動後のスタッフの動向について、手配したり関連部門との調整、希望調査など、間に入って統括部門や事務局が面倒を見てあげましょう。
イノベーションに手を上げる希望者が減っていく
上記のようにイノベーションや新規事業の探索活動に関わった人材が、うまく既存事業に戻ってくれれば、既存組織の文化醸成にもよい影響が生まれます。
一方でイノベーションや新規事業の探索活動に関わった人材の離職が頻発すると、それを見ている既存組織の人々の間において「イノベーションに関わったらいい事がない」、「一度出島組織に行くと帰ってこれない片道切符」、といったような悪い印象が生まれてしまいます。
そうなると更に手を上げる人が減ってしまい、結果として年々組織のメンバーや開発テーマが減ってしまう悪循環が発生します。
このような状況を防ぐには前述の退職を防ぐ対策と同様、「活動後のキャリア選択肢を会社側から準備してあげること」です。
【まとめ】組織を維持・活性化させるには事務局・統括部門による整備・サポートが必要
冒頭でも述べましたが、結論として上述に挙げた失敗事例・困りごとを解決したりフォローするための事務局組織、統括部門が必要なのです。
「個々の開発テーマを推進するメンバーが居ればいい」
と思われがちなのですが、「どうすればメンバーが集まるか」、「集まったメンバーが集中できる環境をどうするか」、「メンバーが退職しないためには」、などなど、活動の障害を取り除いてあげるための組織が必要です。
長くなりましたが、個々の具体的な失敗事例について参考にしていただき「どうすればイノベーション活動、新規事業探索の失敗を防ぐことができるか」という参考になれば幸いです。