品質を向上させるための重要な考え方と3つの要素
当記事では「品質を向上させよう」と思ったものの「何から調べようか」と考えた人に向けて書いています。
QCDについて考える前段階として「品質」そのものについて向き合って欲しい思いです。
Contents【クリックできる目次】
あなたの「品質」は何を指しているのか
品質を良くしたいと思うけど何から手を付けたらいいのかな・・
そんな風に思って当ブログにたどり着いた人もいると思います。
或いは上司や先輩から「品質第一だ」とか「品質向上のためにどうすべきかわかっているか」など問い掛けられて、改めて考える人もいると思います。
品質第一、品質優先などスローガン的にも使われますが、そもそも「品質」という言葉は色々な意味を含んでおり、場面や関わる人によっても意味が変わりやすい言葉です。
例えば、以下のような場合、「品質」という言葉の捉え方はそれぞれ異なっていることがイメージしやすいと思います。
- 製品開発部門の設計者が話す品質
- 製造技術部門の現場管理者が話す品質
- 品質保証部門が納入先への説明する際に話す品質
- 営業が購入先の顧客に対して品質
- 最終ユーザが話す品質
よってまず「あなたが考えるべき品質」がいったい何を指すのかについて明確することを考えてみましょう。
そもそも品質の定義とはなにか
まずは品質の定義について、知識として抑えておきましょう(覚えなくてもいいです)。
ISOでは以下のように定義されています。
対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度
ISO9000より引用
ちょっと意味が分かりにくいですが、対象となる製品やサービスの特性が、顧客やそれを受け取る相手の要求事項を満たす程度である、と言っています。
JISについても見てみます。
品物又はサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体
JIS Z 8101より引用
よく読めばなんとなく意味は分かりますが、どちらも日常会話から離れた表現なので誰かに説明するときに難しく感じると思います。
もうひとつ、品質工学においては下記のように品質を定義しています。
製品が出荷後、社会に対して与える損失
品質工学より
後述しますが、こちらは冗長設計(ロバスト設計)や品質保証の考え方です。
所属部署や立場だけでなく、正式な規格や学問によっても意味合いや視点が異なっていることを感じると思います。
例えば上司や先輩に「そもそも品質の定義って理解している?」と言われたときに、ISOやJISの定義を棒読みしても会話が成り立たないことに注意が必要です。
品質の重要な3つの要素
それでは品質を考えるときにわかりやすく考えるため、以下の3つの要素について分けて考えてみます。
- 有用性
- 信頼性
- 安全性
よく品質の3要素というとQCD、つまり品質(Quality)、コスト(cost)、デリバリ(delivery)が語られます。
しかしよく見ると言葉の使い方として不自然なことに気が付くはずです。
「品質の3要素は品質、コスト、デリバリの3つである」
品質についてその構成要素に品質が入ってしまっては意味がおかしいですね。
もちろんQCDのバランスは重要なのは周知の事実ですが、あくまでQ・C・Dそれぞれのバランスが重要なのであって、品質を構成する要素として品質、コスト、デリバリがあるわけではありません。
今回は「品質そのものの意味」について考える際に重要な3つの要素として、有用性、信頼性、安全性としています。
それでは一つづつ詳しく見ていきましょう。
有用性について
有用性とは簡単に言うと「何かに対して役に立つ」という意味です。
品質について有用性の視点から考えるときには、機能性や操作性が優れている、感性的な意味で審美性に優れている(見た目がカッコイイ)ような場合です。
例えば、製品設計者が「高品質の設計を実現したい」というような表現をしたら、それは「機能性が高く、操作性に優れていて、見た目もカッコイイ」という意味合いで品質という言葉を使っている、と考えるとわかりやすいです。
(もちろん安全を確保した上で、コストの制限を考慮する必要もあります)
営業が顧客に対してセールスする際にも、この意味合いで「品質が良い」という表現を使うことが多いですね。
信頼性について
信頼性とはわかりやすく言うと「故障のしにくさ」です。
また故障しにくくするための点検や修理のしやすさ、修理に関する管理面を意味に含むこともあります。
一般ユーザ視点、例えば自分が購入した家電や車などについてイメージするとわかりやすいと思います。
信頼性工学については、こちらのブログ記事にて概要を説明していますので参考に。
→ 信頼性工学を理解して設計や保全、製品開発の精度を向上させよう
ちなみにJISで「信頼性」という言葉はこのように定義されています
アイテムが、与えられた条件の下で、与えられた期間、故障せずに、要求どおりに遂行できる能力
JIS Z 8115より引用
信頼性工学では信頼性は主に以下3つに分けて考えられています。
- 耐久性:壊れにくさ、どれだけ故障しないか
- 設計信頼性(冗長設計):外乱などに対して意図した機能ができるだけ発揮されるように設計すること
- 保全性:修理・点検、管理のしやすさ
設計信頼性については冗長設計やロバストデザインとも呼ばれており、品質工学にて詳しく学ぶことができます。
保全性については自動車の定期点検や製造業における生産設備を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
点検しやすく、点検頻度が決まっていて点検方法が簡単、といったような設備を「保全性がよい」と表現します。
耐久性、設計信頼性、保全性に優れていれば信頼性が高く、品質が良いと言えます。
品質工学・信頼性工学の勉強ならこちら
こちらの記事にて品質工学や信頼性工学におすすめの書籍、教科書の紹介をしています。
ざっくり概要を知るための本からしっかりとした教科書まであるのでぜひ参考に。
安全性について
こちらは最前提として人に危害を与えないこと、そして資材や周囲の環境に対する危険性が許容範囲に抑えられている状態であることを指します。
設計側の視点としては、以下のような視点で設計することで安全性を確保します。
- フェールセーフ
故障した場合や操作を間違えた場合でも安全な方向に作用する - フールプルーフ
操作する人が間違えた操作をしないようなシステムを構築する
このような視点で設計された安全性が確保された製品・設備が品質が良い、と言えます。
立場別 品質の意味合い【所属部門別】
今まで3つの視点から品質の意味について考えてみました。
さらに立場の違いが分かりやすいように、会社における所属部門別に品質についてどのような視点で会話すればいいのか見てみましょう。
配属されて間もない若手の人は近い部門を思い浮かべてみてください。
若手に向けて説明したい管理者の立場の人は下記をイメージすると伝わりやすい表現で説明できると思います。
- 企画系の部門
企画だけでなくコンセプトを含む上流設計の場合、「顧客のニーズが何なのか突き詰めて考えて、それを満たす企画・設計を実現できれば品質が良い」と言えます。
コストメリットなのか機能性なのか審美デザインなのか、とことん顧客ニーズを掘り下げて、顧客の要求に近いもの・サービス品質が良いと考えるとわかりやすいです。 - 設計系の部門
設計者にとって品質の良い設計というと、先に説明した3点(有用性・信頼性・安全性)をバランスよく捉えて、実現することです。
さらに企業活動なので、コスト・納期の制約の範囲内でという条件が必要ですね(QCDの考え方) - 生産・製造系の部門
分かりやすいのは製造工程における不良項目の影響度・不良率や生産条件の許容範囲など品質の管理面の視点ですね。
不良率が低いから品質が良い、生産条件の設定幅に余裕があるから品質が良いというイメージはわかりやすいと思います。
また生産設備の視点で考えると、製造視点の上記に加えて安全性の確保を前提として設備稼働の安定性、保全・点検のしやすさ、といった点が優れていれば品質の良い設備と言えます。 - 検査・品質保証系の部門
検査については検出能力・検出率が優れている、安定していること、を具体的な検査工程をイメージしてみるとわかりやすいと思います。
品質保証については、検査条件の幅や耐久性・寿命試験の強度、顧客納入先での不具合発生の可能性、不具合発生時の対象の限定の容易性などの視点で品質を語るといいでしょう。 - 資材購買・生産管理系の部門
納入部品の品質について考える必要があります。その視点は検査・品質保証について納入業者(前工程)と一緒に話し合うイメージをするとわかりやすいです。
品質に関係する部門の人におすすめの資格
品質に関係する人に「QC検定」の資格取得をおすすめしています。
→ 品質に関わる人におすすめ資格「QC検定」
また管理職の人にも、部門内のメンバーに取得奨励していくことも効果があります。
レベル別に級を選べるので、新規配属された人でも資格学習を通してQCに関する一通りの知識が習得できます。
また若手が現場への指示を共有したり、上司への説明などに根拠を持った説明ができるようになり、部門内でも資格取得を通じてQCサークル活動に繋げて組織的に改善風土を醸成できるのでおすすめです。
まとめ
品質という重要だけど多くの意味が含まれている言葉について、その考え方や掘り下げ方、アプローチについてまとめました。
3つの視点である有用性・信頼性・安全性について考え、さらに自分や伝える相手の立場(所属部署)について思い浮かべてみるとイメージしやすいと思います。
品質について知見を広げていくにあたり、品質工学や信頼性工学、QC検定のような品質管理知識などについても並行して掘り下げていくと学習効果が高くなります。
自分の業務分野から何を学習すれば即戦力となり得るか、学習のターゲットを考慮して実際に着手してみましょう